【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜


……くそ。


手をぎゅっと握りしめて、ふたりから目を逸らした。



「……和泉くん?」



……え?



「大丈夫ですか……?なんだかしんどそうですけど……」



俺を見て、そう言った静香先輩。

佐倉先輩と話している最中に、自分のことも気にしてくれたことが嬉しかった。

……って、ガキか俺。



「大丈夫です」

「そうですか……和泉くんも病み上がりなので、無理しないでくださいね……?」



心配そうに見つめられて、なんだかむず痒い気持ちになる。

この人の言葉は、どうしていつも真っ直ぐに届いてくるんだろう。


他の奴らから言われたら、きっと放っておけって思うだろうけど、今は純粋に、心配してもらえていることが嬉しいなんて。

返事をしようと口を開いた俺より先に、佐倉先輩が「和泉」と俺の名前を呼んだ。



「そろそろ戻ったら?お前ただでさえ遅れて参加でしょ?他のやつと差開いちゃうよ」