【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜





「ケンくんに……謝れって、言ってくれたって……」



どうやら、一昨日のことを言っているらしい。



「……ああ、それは……。余計なこと言ってすみません」



静香先輩は、大きく首を左右に振った。



「ありがとうございます……嬉し、かったです……」



この表情が俺だけに向けられたのは、初めてかもしれない。

満面の笑顔に、心臓が止まるかと思った。



「……っ」



静香先輩に握られた手を、握り返す。そのまま、自分の方へ引き寄せようとした。


保健室の扉が開く音が聞こえて、ハッと我にかえる。


すぐに手を離し、静香先輩から顔を背けた。


俺……今なにしようとした?