【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜




……ダメだ。



「……俺、もう行きますね」



今はそんなこと聞いてる場合じゃない。

この人は病人なんだから、ゆっくり休んでもらわないと。

このままここにいたら……なにかとんでもないことを、口走ってしまいそうだった。



「……あっ」



……え?


椅子から立ち上がろうとした俺の手を、静香先輩が掴んだ。

驚いて、その場でぴたりと固まる。



「静香先輩?」



なに……してんの?



「あ、あの」



俺の手をちょこんとつまんだまま、何か言いたげに口を開いた静香先輩。

自然と上目遣いになっていて、心臓が大きく高鳴った。


どうしようもなく可愛く見えて、仕方なかった。