【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜




「……ずっと待ってました」

「え?」



俺の言葉に、驚いた表情をした静香先輩。

この人のこの顔を見たのは、もう何度目だろうか。



「静香先輩が、来てくれるの……待ってました」



そういえば、何故か静香先輩は、一瞬泣きそうに下唇を噛み締めた。……ように見えた。

ふいっと俺から目を逸らして、下を向いた静香先輩。



「……約束破って、ごめんなさい……」

「謝らないでください。謝るのは……俺の方、なんで」



本当に、あなたの口から謝罪なんて聞きたくない。

むしろ、もっと俺を責めたらいいのに。

自分でも、発言が二転三転している自覚はある。

それなのに……この人はどうしてこんなに、優しいんだろう。


聞きたいことは山ほどあった。


佐倉先輩とは本当に何もないのか。昨日どうして、抱きしめられて拒まなかったのか。


愛人という噂はただの噂なのか。あの高級車の男は誰なのか。

静香先輩が俺を好きになってくれる可能性は……少しでもあるのか。