【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜




「あの……和泉くんが、運んでくれたんですか……?」

「……一応」



俺の言葉に、静香先輩がにっこりと微笑む。



「ありがとう、ございますっ……」



少し弱々しい声で紡がれた感謝の言葉。

その笑顔に、息を飲んだ。


やっぱり、綺麗だ。

この人はどこまでも、美しいって言葉が似合う。



「……あの」



ゆっくりと、口を開く。



「どうして、来てくれなかったんですか?」

「え……?」

「俺の部屋。おかゆ持ってきてくれるって言ったのに……」



こんな時に聞くことじゃないってわかってるのに、聞かずにいられなかった。

俺は……ずっと待っていたのに……静香先輩はあれから、一度も部屋には来てくれなかったから。



「あ……」



静香先輩が、気まずそうに俺から視線を逸らす。


やっぱり、嫌われているのか……と、諦めにも似た感情が生まれた時、




「約束……破って、すみません……」



申し訳なさそうな声が、耳に届く。

違う。謝って欲しい訳じゃない。