【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「……俺が慰めてるから、心配しなくても平気だよ」



——佐倉先輩が、静香先輩を抱き寄せた。




離せと言いたかった。

静香先輩は佐倉先輩と付き合ってないと言っていたんだから、抱きしめる理由なんてないはずだ。


でも、何も言えなかった。

静香先輩が、拒む様子を見せなかったから。



「……そうですか。……邪魔してすみません」



俺の口から出たのは、なぜかそんな謝罪の言葉。


二人から目をそらして、来た道を戻る。


頭、いった……。

結局、あのふたりはなんなんだよ。

付き合ってないだけで、両思いってやつ……?


もう、意味わかんねーし……。


あの人は一体……どこまで俺を振り回せば気がすむんだ……。


さっきのふたりの光景が、頭から離れない。

このどす黒い感情は多分嫉妬。


わかってる、でも……


頭の中がぐちゃぐちゃで、もう何も考えたくなかった。