【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



静香先輩が誰かに傷つけられるのを、見ているだけなんて嫌だったんだ。



気持ち悪……。

走るたび、頭がガンガンして、吐き気さえする。やっぱりまだ自分は病人だと、認めざるを得ない。

けど、今はそんなことどうでもいい。

泣きながら走っていった静香先輩を、必死で探した。


……でも、遅かった。

宿舎の裏で、人影を見つけた。

ひとつではなく、ふたり分の。



「……い、ずみ……く……」



俺を見た静香先輩が、大きく目を見開いた。

その目は赤くなっていて、きっと今も泣いていたんだと思う。



「……どうしたの?部屋戻れって言ったでしょ俺」



佐倉先輩の言葉に、少しだけ苛立つ。

俺はあんたの子供じゃないし、ふたつしか変わらないくせにガキ扱いすんな。

何より、先に静香先輩を見つけられなかったことにムカついた。



「……静香先輩……泣いてたんで……」



静香先輩が、俺の言葉に再び目を見開かせた。