【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「お前ら、それ以上ダサいこと言うのやめろ」



これだけ、言っておかないと気が済まない。



「……次あの子泣かしたらキレるぞ」



怒るのは苦手だった。

苦手っていうか、「優しい」と思われた方が世の中なにかと便利だ。

一応キャプテンだし、俺が朗らかにしていた方が部内の空気も良いはずだと、常に笑顔を意識していたつもり。


けど、そんな今までの努力も自分のイメージも、清々しいほどどうでもよくなった。

静香ちゃんのためだったら、俺は他のやつからなんて言われようとどうだっていい。


自分の保守を全て捨てて、あの子を守ってあげたい。


早く……探さなきゃ。


二年に背を向けて、静香ちゃんが走っていった方向へと俺も向かう。


きっと今頃、ひとりで泣いてるんだろう。


華奢な身体を震わせて泣いている静香ちゃんを想像するだけで、胸が酷く痛んだ。