【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜


「最近彼女じゃなくてオカンっぽかったんだよあいつ。終いには俺が浮気しても『じゃあ別れよっか』だけだぞ?ほんと可愛げねーわあいつ」



まだ笑い混じりに話しているそいつに、「後で注意しておくか……」と思いながら俺も歩き始めた。



「……っ、え?」



そんな俺の耳に、困惑の声が聞こえて再び足を止める。



「花染、さん?」



……え?



「ど、どうしたの静香ちゃん……?」



一歩下がって、影から覗く。

そこには、逆の方向から二年の前に現れたらしい、静香ちゃんの姿があった。

何故か、スタスタと歩き出していた和泉も戻って来て、驚愕した様子で静香ちゃんの方を見ている。


……泣いてる?

視界の真ん中にいる静香ちゃんの頰に、遠目からでもわかるような大粒の涙が流れていた。