【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「ふふっ、なんか面白い。近づいたら毒牙に刺されるとか百戦錬磨とか聞いてたのに……むしろ真逆みたい」

「あ、あの、さっきから何を……?」

「ううん、こっちの話。涙、止まったみたいでよかった」



あっ……。

彼の言葉に、いつの間にかすっかり涙が止まっていたことに気がついた。


……彼の、おかげだ。

きっと一人だったら、今頃ずっと泣きながら、うじうじしていたに違いない。


名前、なんていうんだろう……。

お世話になった彼にお礼がしたいけれど、名前がわからない。



「あの……お名前、伺ってもいいですか……?」



恐る恐る尋ねると、何故か彼は、「え?」と驚いたような声を出した。



「……あ、俺のこと、知らない?って、なんかナルシストみたいだな。ごめん名前聞かれることとか無かったからビックリしちゃって」