【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「……そうなんだ。お疲れさま」

「いえ……」

「静香ちゃん、まだ晩御飯食べてないでしょ?早く食べちゃいなね?」

「は、はい……!」



どうやらそれ以上聞かれる心配は無さそうで、安心した。



「それじゃあ……ゆっくり休んでくださいねっ……」



和泉くんにそう言って、足を一歩踏み出そうとした時、



「……待って」



私を引き留めた、焦りを含んだ声。



「……また、おかゆ……持ってきてください」



一瞬幻聴かと思った、その言葉。



……それは一体、どういう……



……また、来てもいいってこと……?



……、いや。

そんな訳、ないか……。



「はいっ……明日も作りますね……!おやすみ、なさい……」



精一杯の笑顔を浮かべて返事をし、私は振り返らずに部屋を出た。


パタリ、と、音を立ててしまった扉。