「本当に、無事で良かった」

気がつくと和尚に抱きしめられていた。頭を撫でられた。苦しいのと体がかなり気だるい。記憶が混ざって気分が悪いがとにかく何が起きたか分からないが和尚を傷つけずに済んだみたいだ。

ここは道場かと場所が分かった。

和尚は名月を離して険しい表情で名月の手元を見た。名月も見ると錆びすぎて鞘から抜けないはずの鉈が綺麗になっていた。名月は抜いてみようと引っ張るが抜けなかった。

「貸してみなさい」

和尚に鉈を渡すと鉈は錆びて元に戻り、名月は無機質を感じさせる驚いた表情をした。


「名月、実はな・・・」

和尚から聞いた話によると名月は大広間から出ようとしたところ倒れたらしく、その時精神と肉体が離れ、精神である名月の魂が霊体になり、肉体と離れたことに気づかず大広間から出ていき、和尚は慌てて名月の行こうとしているであろう道場へ先回りし、魂を部屋から出られないよう結界をはったりして待っていたそうだ。

「いやしかし、まさか私が一生懸命経を唱えているのにお前さんは呑気に私に気づかず札をはってる所に堂々と寝転がって・・・なんて奴だ」

「そういえば、確か・・・」

道場に入った記憶はあるが、和尚はいなかったはずだ。見間違いにしては不思議だ。これも鉈の邪気によって視覚に影響を与えられたのだろうか。そこで質の悪い冗談だと気付いて納得した表情をした。

「あぁ、名月が日々修行をしていたからというのもあったからだろうが・・・名月がここで寝た時、あの時に感じた邪気を大広間で感じた。その時、名月の精神がかなり不安定で魂が消えかかっていた。その邪気がこちらにゆっくりと近づいて来よってくるのを待っていたのだが、どうやら名月の肉体と精神を気づかれんよう少しづつ引き離し肉体を乗っ取ったのだろう」

「待っていてどうするつもりだった?」

「お前が警策を叩いたのかと聞くつもりだった」

「・・・??」

「そうか、覚えがないなら気にするな」

「・・・ごめん、助けてくれてありがとう。それって意識を保てるようにするための修行が足りないせい・・・」

「いいや、そうしたらこうして意識を取り戻せはしないだろう、名月の精神が強いからこそこうして元に戻ったのだから、あまり思いつめるな、私も気づいてやれんかった」

思いつめてはいないが、今はとにかく休みたいという気持ちだった。恐らく和尚もだろうと思った。どことなく表情が暗い。

あの時ほどの邪気ではないと和尚は言ったが、相当邪気が強かったのだろう。

「今はしっかり休め、明日話をしよう」

和尚が言うと話が終わった。

それが、去年の八月十五の出来事。