私のお腹の中に、貴方がいた頃。

私は、周りの大人たちに産むことを反対された。

『君は体が弱いから、産めない。』

『生んだところで、愛情を注げるの?』

『相手はもう、いないのでしょ?』
 
反対の声を押しのけ、私は必死に言うのだ。

『あの人と結ばれたあの日、二人で誓ったことを忘れない。

目の前にもうあの人がいなくても、私はこの子を産み育て

る。それが、あの人と私が一緒に生きた最後の証だもの!』

だがそれを言った所で、気持ちは伝わらず状況は変わらない

まま私は子供を産んだ。

反対を押し切って産んだその苦しい気持ちに、胸が千切れそ

うだった。

でも、私は何一つ後悔はしていない。

だって貴方が産まれた時の、その声、顔、全てに心が安らい

だからだ。

大粒の涙が1つずつこぼれ、貴方の1日1日大切な日々を数え

るかのように、私はゆっくりと涙を流した。





それから、20年が経った。

私は手にシワシワかでき、年を重ねる内にいつも以上に貴方

に愛情を注げる。

貴方はすっかり私の背の高さを越していき、元気よくたくま

しく育ってくれた。

少し悲しく、もう一人で生きていける歳なんだなぁと、子育

てはあっという間な感じがした。

貴方が幸せでいることが、何よりも私ともういないお父さん

の願い。

『ねぇ、聞こえてますか?』

空に手を伸ばし、問いかける。

『最高の笑顔が私の一番の宝物だったよ。』

静かに静かに、呟いたその日私はあの人の元に逝ったのだ。

手を取り、あの頃のページをめくるんだ。

『さぁ、ここからまた幸せを探すんだ』っと…。