澤口が戻ってくる頃には透さんは他のお客のところへ行ってしまった。
そこからは澤口と2人、たわいもない話をした。
その流れで入社当時に言われたあの噂の話をした。
「私ももう25歳だよ。焦るよね。
いいなぁ。男は何も言われないんだもの。」
25歳までに声をかけられなければ終わり。
この噂を澤口はどう思ってるんだろう。
自分には関係ないことだから興味すらないとかありそうだ。
「前から思ってたけど。
腰掛けだろ?そんなの。
仕事を真剣にしてる女性社員を侮辱してる。」
すごくまともな考え方をしていて意外というか、澤口らしいというか。
「仕事を辞めさせて若い奴を入れたいのは分からなくもないが……。」
普通そう思うよね。
女の子は若い方が可愛いって。
だから私は自虐的に言う。
「お局様と呼ばれてもいつまでも居座るわよ。」
「フッ。」
「馬鹿だって思ったんでしょ。」
「あぁ。」
やっぱり。そうだよね。
落胆したのは束の間。
澤口が重ねて言った言葉に胸をギュッとつかまれた気がした。
「頑張ってるもんな。仕事。」
どうして……。
どうして、一番欲しい言葉を澤口がくれるわけ?
泣けそうになって潤む目を澤口に気づかれないようにそっと拭った。
「澤口が食いっぱぐれても私が養ってあげるよ。」
「んとに馬鹿だよなぁ。
そういうこと言うからダメな男に引っかかるんだろ?」
「澤口がもらってくれるなら大丈夫だよ。」
「そう。だな。」
それでいいんだ。それで。
生理的に受け付けないブ男じゃない限り。
腹を決めて部長が勧めてくれた見合い相手と結婚するって決めていたんだから。