「私のこと、なんでも知ってるんでしょ?
 なら、どうして家は知らないわけ?」

「それ知ってたらストーカーっていうの。」

「うーん。何が違うのか分からない。」

「だからダメな男に……。」

「何かおっしゃいました?」

「いいえ。何も。」

 ふざけあった会話が楽しいなんて思ってる。

 どうして澤口が嫌いなんだったっけ?
 あぁ、嫌いなのは澤口の方か。

 一言、聞けば済む話だ。

 私のこと嫌いなんでしょ?
 どうして見合いを続けているの?

 そんな簡単なことが聞けずにいる。
 澤口のことだから聞いたって答えてくれるとは思えないけど。

 聞けない。
 何かが終わってしまう気がして。

「じゃおやすみなさい。」

「あぁ。風邪。ひくなよ。」

「そうだ。会わせたい人、良かったの?」

「あぁ。うん。」

「もしかして……。
 岡本課長ってことないよね?」

「馬鹿言ってないでもう行けよ。」

 私がマンションに入るまで、見送っておくと言われた。
 心配性なのか、単に本当にここのマンションなのかと、疑っていたりして?

 私がどこに住んでいようと、住んでいる場所を知ったところで……。

 不可解に思いながらオートロックを解除して中へ入る時に振り返って一応、手を振ってみせた。

 タクシーの中で澤口も手を上げたのが見えて、タクシーは再び走り始めた。