「もうこんな時間。」

 終電はとうに過ぎている。
 会社から出られるのかさえ怪しい。

「こっち。」

 どうやら澤口はこの時間でも慣れているらしく、裏から出られる方法を知っていた。

「寒っ。」

 夜になると冬が駆け足でやってきているように感じる。
 今年も甘いイベントを過ごすのは無理そうだなぁ。
 性格的にも無理なのかなぁ。

「寝起きに冷えると風邪を引くぞ。」

 肩を抱かれて、うっわ…と心の中でつぶやいた。
 確かに緊張したり色んな意味で体が熱くはなったけど、こんなのなんだか……やめて欲しい。

「大丈夫。昔から体だけは丈夫だから。」

「馬鹿。俺が寒い。」

 嘘ばっかり。
 くっついている体はどう考えたって澤口の方が暖かい。

「今日こそは送ってく。」

 タクシーを拾われて、そう言われたら断れない。
 しかも先にタクシーに乗せられて、同乗するのも免れない。

「澤口の家はどこなの?」

「まぁそれは追い追い。」

 澤口のことを聞くと躱される気がするのは気のせいなのかな……。