「会わせたい奴」だなんて、もしかして……この時間からご両親ってことないわよね?
 見合いだし、澤口ならあり得そうで怖いわ。

 不意に人の気配を感じて視線を移すと、見なきゃ良かったと後悔する人が立っていた。
 その人は平然とにこやかな挨拶を口にした。

「お疲れ様。」

「……お疲れ様です。」

 つい指に視線が行って、やっぱり指輪は付けていないことを確認した。

 私の視線に気付いた岡本課長は柔らかく微笑んだ。
 今まではその笑顔に癒されたはずなのに、今は反吐が出そうだ。

「あぁ。気になる?
 金属アレルギーなんだ。」

 嘘ばっかり。
 それならそうと、奥様の前でも同じように言えばいいのに。

 何より私が「奥様が心配しますよ」と言った時に「そんな人いない」って言っていた。
 それとも、そう言った時はいなくて、最近になって結婚したとでも言うわけ?

「お時間、大丈夫なんですか?」

 昨日誘われたホテルの時間は10時だったのを思い出して、わざと聞いてやった。

「あぁ。行くよ。
 最愛の人が待っているからね。」

 嘘っぽい言い方。

 本当に私って見る目がない。