突然立ち止まった澤口が見つめる先に視線を移して絶句した。

「奇遇ですね。
 こんなところでお会いするなんて。」

 白々しい挨拶を向けた先には岡本課長が目を見開いて立っていた。
 今、まさにモーテルに入ろうとするところを敢えて声をかけたみたいな……。

「ヤダ。こんなところで。会社の人?」

「あ、あぁ。」

 岡本課長の隣にいた女性が頭を下げた。

「こんなところでごめんなさいね。
 いつも夫がお世話になっています。」

 夫…………。

「珍しいですね。
 岡本課長が指輪されてるの。」

「は?いや、いつも付けてるよ。
 嫌だな。気付いてないだけだろ?」

 隣にいる女性に睨まれて必死に弁明する左薬指には確かに指輪がつけられている。

「澤口くん達はこんなところでどうしたんだ?」

 話を逸らすように私達へ話題が振られて澤口は平然と答えた。

「この先のホテルへ行く途中に迷い込んでしまって。
 彼女が恥ずかしがって口を聞いてくれないんです。」

 澤口がこの先のホテルと言って続けて口にしたのは見合いをした高級ホテル。
 岡本課長に誘われたホテルよりもワンランク上のホテルで誰もが一度は泊まってみたい憧れのホテル………。