「朱音の口の中、甘い。
 飲んだのはカクテル?サワー?」

「ヤダ。そういうの言わないでよ。」

 意地悪なことを言われているのに澤口の声は甘さを漂わせていてその甘さに酔ってしまいそうになる。

 続けてまたからかわれることを言われるんだろうなって心構えをしているのに、何故だか何も言われなかった。

 それはそれで沈黙に耐えられなくなってそっとお伺いを立てる。

「……どうしたの?」

 見上げると目があってそらされた。

「………早く風呂行かないと前の二の舞になっても責任取れない。」

 自分の髪にクシャリと手を入れた澤口が私の体を押し離した。

 前の……二の舞。

 その言葉だけで急に前の夜のことが蘇って、ブワッと顔が熱くなったのが分かった。

 忘れられない。
 熱くて濃厚で甘い眩暈のしそうな夜のこと……。