両手で包み込むように髪に手を入れて顔を持ち上げられた。
 おでこを擦り合わせた澤口が鼻同士も擦り合わせて「フッ」と息を吐いた。

「朱音がすごく愛おしい。」

 恥ずかしくなるような言葉を口にして、唇を触れ合わせた。

 半月ぶりの優しいキスは胸を締め付けて苦しくさせる。

 澤口は優しくガラス細工を扱うように触れた。
 あの夜と同じ熱っぽい視線をからませて。

 それはまるで真夏の蜃気楼のような夢見心地で確かにそこにあると思うのに、まぼろしみたいな、そんな熱に浮かされそうになる。

 だから夢から一気に醒める質問を敢えて向けた。

「嫌いって言ったのは本心なんでしょう?」

 本当は、その口で再び嫌いだって言われる勇気はない。

 その薄くて色気漂う唇から。
 その酔いしれてしまいそうないい声で。

 嫌いって言われた時のショックからずっと聞けなかった質問。

 好きだと言われた今でも。
 嫌いだと言われた言葉が重く自分にのしかかっているようだ。

 だからこそ。
 もう聞かずにはいられなかった。