「機嫌、直った?」

 澤口に顔を覗き込まれて、顔を背ける。
 ため息を吐いた澤口は頭をかいた。

「頷いてくれたろ?」

「それは!それは、だって……。」

 同期会が終わったら知世とパーッと温泉旅行でも行こうって計画をしていて、休みまで取ってあった。

 それもまんまと騙されていて、今こうして澤口と別荘らしきところで2人きりになっている。

 まだ2次会、3次会と続くはずの同期会を早々に退散して、車に乗せられた。
 高速を走らせて1時間半。
 何を話していいのやら無言のまま。

 運転の為に同期会ではお酒を控えていたというのだから、呆れればいいのやら、喜ぶべきなのか…。

 旅行のことだけじゃない。
 私の動向は逐一報告されていて、澤口は私のことは手に取るように分かっていたのだ。

「知世まで裏切っていたなんて……。」

「裏切りじゃないだろ?
 いい加減、素直になれよ。」

 少し強引に抱き寄せられて、最初こそ抵抗した私も次第に抵抗を軟化させて、終いには澤口にしがみついた。

「だって、こんな………。」

 もう、こんな風に触れることも出来ないって思ってたのに……。

「泣くなよ。朱音に泣かれると困る。」

 呆れたような困ったような声を出す澤口が私の背中を優しく撫でる。
 その優しさが涙を余計に助長する。