最初はからかう気持ちで行ったホテルのフロントラウンジ。

 俺だと気付いてあからさまに落胆した高橋をもっとからかってやろうって、見合いを断らなかったのはそんな出来心で。

 そこから……知らない間に落ちていた。

『嫌いだ』って言った時のショックを受けた顔を見て、もし『好きだ』って言ったらどんな顔をするだろうって思ったところからだろうか。

 それとも岡本課長に騙されて流す涙を見たせいだろうか。

 いや、多分。自分でも気付いていないだけで、ダメな男に尽くす朱音を俺の方へ向かせてみたいって思ったんだ。

 だからあんな『嫌いだ』なんて朱音の耳にも入ると分かっていて、ひどい言葉を口走ったりした。

 少しでも俺のことを朱音の心へ刻むために。

 試しで付き合うと言い出して朱音と過ごした1週間。
 朱音も俺へ惹かれていると感じたのは自惚れじゃなかった。

 けれど朱音は別れを選んだ。

 だから俺は………。