解せないのは澤口が「気に入った」と嘘までついて見合いを続行させたこと。
気に入らない相手との見合いを続けてまで、上司に有能な自分を見せたいのかと勘ぐってしまう。
出世の鬼なんだとは思う。
じゃなきゃ海外赴任なんて。
もちろん海外で自分を試したいとか、そういう向上心の塊みたいな人もいるだろうけど。
海外赴任、基本の任期は3年。
帰国後はそれ相応のポストが用意されてる。
あれ、そういえば澤口は3年経ってないんじゃ……。
……馬鹿らしい。
あんな奴のこと考えるだけ時間の無駄だ。
昼休みはあと少し。
メールの整理でもしていた方がよっぽど有益な時間が過ごせる。
気を取り直して社内メールを開いたのに、仰け反って椅子から落ちそうになった。
『至急』と書かれた題名には『懇親会について』と続いていた。
仰け反ったのはそこじゃない。
差出人の欄には『資材調達部/澤口恭一』と表示されていたから。
開くのを躊躇しつつ開くと『開封通知をお送りしました』とのポップが表示されて「…ッ。トラップ付きなわけ?」と小さく漏らした。
『舌打ちせずに今日の終業時間を知らせること。
懇親会を開く。』
何を寝ぼけてるのか。
宛先はいくら見ても私ただ1人。
懇親会でもなんでもない。
こんなのただのデー………ってないないない。