医務室で休憩させてもらえて、少しは冷静になれた。
 澤口に言われるまま今夜も会っていいのか思い悩む。

 迷いが生じる私は職場へ戻るために歩いていると澤口のところの部長に会った。

「やぁ。君は……。」

 澤口の見合い相手だと知っているような素振りに会釈を返した。

「澤口くん、海外に戻りたい為に嫁さんを探していたんだよ。」

 部長の言葉に驚いて質問を向けた。

「どういうことですか?」

「いやね。
 誰でもいいから結婚しろって言ったんだよ。
 今度から海外赴任は妻帯者しか行けなくなって独身者は帰国を余儀なくされてね。」

「誰でも……いいから。」

 これにはさすがに部長も口を滑らしたと思ったらしく慌てて訂正した。

「ハハハッ。悪い悪い。言葉のあやだよ。
 誰か思い浮かぶ人がいないのかって聞いたらいないって言うものだから。」

 私も責められた立場じゃない。
 最初は同じスタンスだったし、澤口のこと嫌いだって思っていたのに断らなかったんだから。

 けれど……。
 海外に戻りたいからという話は一言も聞いていない。

 それは、そうか。
 澤口側の話は何一つ教えてもらっていないのだから。