「おい、大丈夫か?」
 

 横から声がして、驚きながらその先を見ると、スーツ姿の色が心配そうに翠を見つめていた。


 「冷泉様………?あれ、私………。」
 「うなされてたぞ。ほら、涙まで流して。」
 

 色に指で涙を拭われ、翠は少しずつ今の状況を思い出してきていた。


 「体調悪いんだぞ。こんなところで寝ないでベットで寝ろ。」
 「あ、すみません。」


 体を起こそうとすると、色は腰を支えながら手伝ってくれる。体を労ってくれるのがわかり、翠は嬉しくもあり同時に申し訳ない気持ちになってしまった。


 「あんまり食べれなかったんだろ?何か食べるか。」
 「あの冷泉様……すみませんでした!」
 「倒れたんだ。仕方がないだろ。」
 「そうではなくて………花火大会で、その、心配してくれた冷泉様に酷いことを言ってしまって。本当にすみませんでした。」
 「あぁ、その事か。」


 色は、はーっとため息をつきながら、1度は離れたら距離をまた近づけ、翠の目の前に立つ。
 

 「あれは、俺も悪かった。だから、気にするな。………まぁ、なんだ。彼氏から貰ったものなら、大切にもするだろ?」
 「か、彼氏………何の話ですか?」
 「………。」
 

 翠はきょとんとした顔で、色を見つめると、彼は驚いた表情になった後に、恥ずかしそうに顔を背けた。だが、その顔は真っ赤になっているのが、すぐに翠にはわかった。


 「彼氏からじゃないのかよ………。」
 「はい。あれは祖母の遺品なんです。………冷泉様、もしかして、彼氏からだと思ってたんですか?」
 「…………悪いかよ。」
 

 片手で顔を覆い、その隙間からジロリと翠を睨むが、照れている顔では全く怖さが感じられなかった。


 「私、冷泉様が好きで告白してるのに、彼氏なんていませんよ!」
 「……最近、ストレートに言うようになったな、おまえ。」
 「え…………す、すみません!」


 色に言われて、自分が彼に好きだと言っていることにやっと気づいて、翠も赤面してしまう。
 2人で照れているのが面白くなってしまい、同時に笑ってしまう。

 こういう時間が、翠は何より好きだった。


 「とりあえずは、元気そうだな。……風呂入りたいだろ。沸かすから入ってこい。」


 色は、そう言うと準備をするのかリビングから出ていこうとした。


 その時、色のズボンの裾が泥で汚れているのに、翠は気づいた。