16話「甘い和菓子の味」




 「ど、どうぞ……。狭い部屋ですが……。」

 翠は緊張した面持ちで、部屋のドアを開けた。目の前にいる人は、平然と「あぁ。邪魔する。」と、行って翠の部屋へと入室した。

 この家に翠以外の人間が入るのは珍しいことだった。数少ない女友達が何回か入った事があるぐらいで、男の人が来たのは初めての事だった。
 しかも、それは翠が大好きな人なのだから、それは大事件だった。


 「椅子が1つしかないので、こちらの低いテーブルでもいいですか?あ、このクッションどうぞ。」
 「おい。おまえ、少し落ち着け。」
 「………はい!あ、お茶出しますね。」
 「………いいから、座れ。」


 翠は素早くお茶をいれて、昼に色からいただいた和菓子をお茶請けに出してから、色の隣に座った。
 いつもよりも小さいな家に、小さなテーブルなので、距離がグッと狭くなるのを感じてしまう。
 ちらりと、隣の彼を盗み見ると、いつもとは違うスーツ姿に端整な顔立ちの彼の横顔があり、ドキリとしてしまう。和装の時の首元や腕がちらりと見える色気とは違って、スーツも男性独特のかっこよさがにじみ出ている。
 ドキドキしながら、見つめてしまうと彼は、視線を感じたのかジロリと睨むようにこちらを見て、少し強い口調で話し掛けた。


 「なんだ、さっきからジロジロ見てきて。」
 「すみません!……なんだか、自分の部屋に冷泉様がいるのが信じられなくて。」
 「おまえが誘ったんだろ?」
 「えぇ!……そんな………。でも、そうなんですけど。」


 色はからかいのが面白いのか、にやりとしながら翠の反応を楽しんでいた。その様子は、料亭で家庭教師をしている時と何ら変わりはなかった。
 緊張してしまっているのは自分だけだとわかっていたが、やはり少しだけ悔しい気持ちになってしまう。惚れた弱味というのは、こういう気分なのかな、とさえ思ってしまう。

 何故、翠の家に色が来ているのか。
 それの理由は、今日の昼休みの時間の会話から始まっていた。