色は「悪かったな。」と言いながら、腰支えて優しく起こしてくれた。グシャグシャになった顔を見られてしまうのは恥ずかく、そして、断られてしまった事で顔を見ることが出来なかった。
 

 「今日はもう止めにしよう。………本気で辞めたいなら辞めてもいい。」


 少し着崩れた着物を直しながら、色はそう言った。好きでもない女に告白されて、その人と二人きにりで過ごすのは、気まずいのかな、と翠は自分でも嫌になるぐらい卑屈な考えをしてしまっていた。


 「………冷泉様。私、冷泉様の迷惑にならない程度でいいので、一緒にいたいです。今まで以上に勉強して、冷泉様にいろいろ教えるので。やはり、辞めなくてもいいですか?」


 勢いよくそう言ってから翠は、少しだけ後悔した。
 断られた女なのに、未練がましく「会いたい。」と言うのは、彼も迷惑するだろう。バカな女だと思われるかもしれない。 
 それでも、まだ飽きられられないのだ。
 色に断られたる覚悟で言った言葉だった。

 けれど、返ってきたのは彼らしく言葉と優しさだった。


 「おまえは、我が儘な女だな。仕方がない………まぁ、俺も辞めさせるつもりはなかったからな。」


 いつものニヤリとした微笑みと俺様な言葉。
 久しぶりの表情と、隠された彼の本音に、安心してしまい、翠が泣くと「いい大人が泣き虫か。」と笑いながらまた、今度は少し乱暴に頭を撫でられた。
 色の優しさが嬉しくて、残酷で。翠はチクりと胸が痛くなった。