その言葉を聞いて、翠は戸惑ってしまう。
 まさかの提案に、何も答えられなかった。彼が断るのを期待して言っているのは理解していた。
 だが、彼からの提案は、翠の心を乱すのには十分だった。
 お金の関係ではなく彼は他でもない身体を求めるような発言をしたのだ。
 顔には出さないようにしたが、翠は悲しさで頭は真っ白になっていた。

 「それが嫌だったら………。」
 「わかりました。」
 「…おまえ、何言って……。」

 翠は身体を硬直させ、そして、少し涙目になりながら、彼の提案を受け入れたのだった。
 色は、驚きながらも何故か彼が悲しんでる顔にも見えた。翠の気のせいだったのかもしれない。その表情は、一瞬で怒りだけの顔になっていたので、もう見ることが出来なかった。

 「お金を受け取らないというのは、私の我が儘です。だから、冷泉様のお話を受け入れます。」
 「おまえは、それでいいのか。」
 「……はい。」

 小さく頷き返事をした後、翠は視線を下に向け、俯いてしまう。これ以上、色を見ていたから、感情が溢れ出て、色に気持ちがバレてしまうのが怖かった。

 「…………くそっ!」

 と、色が苛立つ声が聞こえたと思った瞬間、強い力で腰を引き寄せられ、色の胸の中にきつく抱き締められる。顎に手を添えられ、顔と顔が触れてしまう直前で止まった。目の震えも、吐息も、香りも、全てを感じてしまう距離だ。

 「身体だと貰いすぎだから、キスにしといてやる。ただのキスで終るとは思うなよ。金の分は、気持ちよくさせてやる。」

 そう言うと、色は翠を喰らうようにキスをする。
けれども、それは乱暴では決してなく、労るような優しいものに翠は感じられた。
 だが、すぐにその熱い快楽の波の飲み込まれいくように、色の口づけに翻弄されていく。

 気持ちいい、悲しい、嬉しい、切ない、、、いろいろな感情と感覚が混ざり合って、翠は涙を溢してしまっていた。

 それに気づいたら色は、指でそれを掬いながら、「泣くな。」と、熱を帯びた声でそう言い、悲しさを忘れさせられるようにキスを、翠に与え続けた。



 ふたりの初めてキスが終わる頃には、シャーベットは完全に溶けてしまっていた。