「おまえに、プレゼントだ。」
 「そんな!昨日、エメラルドの指輪を貰ったばかりなのに、どうして……。」
 

 翠は左の薬指、そしてダイヤモンドだと言うことにドキドキしていた。恋愛経験が少ない翠でも分かることだった。


 「エメラルドは、エメルに感謝を込めて。そして、ダイヤモンドはおまえの誕生日と、おまえの恋人にさせてもらうために、買ったものだ。本当は花火大会の日に渡すつもりだったんだ。」
 「冷泉様、私はこれを貰う資格はありますか?冷泉様に、探してもらえるような人じゃなかったのかなと思います……。冷泉様との記憶がないのに。」
 「俺が好きになったんだ。エメルも、一葉翠という女を。それだけじゃダメか?」


 色は、翠に顔を近づけて心に問いかけるように、優しく「好き」を伝えてくれる。
 自分が忘れてしまっている「エメル」という少女と、今の自分を好きでいてくれる、彼の気持ちがとても嬉しかった。
 翠は、彼が愛しくて堪らなくなってしまう。もう、彼しか見れないと、頭と体と心がそう言っていた。


 「私は冷泉様が大好きです。きっと、和菓子を持ってきてくれる優しい少年も、憧れて好きだったと思います。」
 

 色は、その言葉を聞くと嬉しそうに微笑み、ゆっくりと翠を抱き締めながら「ありがとう。」と心からの言葉を伝えてくれた。


 「その左手の薬指は予約ってことだからな。また、正式にお前にプロポーズする。」
 「………私は、もう冷泉様しか見えてないので、いつでも貰われる準備は出来てますよ?」
 「………おまえな……そうやって俺を甘やかして煽るの上手くなりすぎだ。」


 翠は抱き締められていた体を少し離して、彼の顔を見つめると、少し照れたように自分を見てくれる彼と目が合った。
 翠はそれが嬉しくて、つい笑ってしまうと、色は少し怒ったような顔を見せた後、翠の顔に手を添えて、ゆっくりとキスをした。

 深くて濃厚な長いキスに翻弄されて、彼の唇が離れる頃には、翠の顔は真っ赤になってしまっていた。
 

 「今度は俺がお前を甘やかして煽る番だな。」
 「あの、冷泉様。ギリシャのお店の打ち合わせは………?」
 「それは、このキスが終わってから。夕方にでもやるか。」
 「………そんなに沢山………!?」


 夕方まではあと数時間もある。
 色の甘い誘いに、翠は驚きながらも抵抗出来なかった。いや、抵抗したくなかったのかもしれない。


 「やっと俺のものに出来たんだ。エメルも翠も。俺にお前を感じさせてくれ。」
 「………私も、冷泉様を感じたい、です。」


 お互いにうっとりとした表情をして見つめ合い、求め感じ合うように、またキスを繰り返した。


 色と翠は、部屋がうっすらと暗くなるまでふたりで熱を感じ、幸せな時間を過ごした。