がりり――
がりり――

と、今度は壁を掻く音。

間違いない。

なにかが、壁の向こうにいる。

キッチンから出て右の廊下――階段との間に、なにかが。

がりり――

光から身を隠していながら、息を潜めていながら、存在を主張している。

がりり――

なにかが……

少女は、ゆっくりと踏み出した。

フローリングの冷たさを味わいながら、一歩、一歩と、入り口へ進む。

がりり――

そして廊下の手前で、立ち止まった。

入り口のへりに手をかけ、廊下を、覗き込む。

そこには――

「……?」

なにも、だれも、いなかった。

首を捻りつつも、少女は胸を撫で下ろす。

ひょっとしたらただの空耳かもしれない。

思って、少女はトイレへ行くことにした。

廊下へ出て、階段を通りすぎ、電気のスイッチを入れながら突き当たりのドアを開ける。

羽虫の飛ぶような乾いた音を立てて、小さな個室に白が灯った。