…かと思いきや、今度は言い合いを終わらせたらしい拓海さんが、私の方を向いて聞いてきた。



「…とりあえず、今思いついたお願い、言ってごらん?」

「え…?」



…聞いてない。

それに、相変わらず唐突すぎる。


お願い…。

…。

…。

…。



「…ちょっと、恥ずかしいんですけど…」

「うん」

「その…ギュッってしてほしいです…」



…こんなこと思うのは多分、私なりに一番愛情を感じる行動だから。

小さい頃、妹ばかり抱っこされてたから。…寂しかった。


ギュッってしてもらえるのは、すごい好き。

だから…。



「…途中で離してって言われても、離せないかもしれないよ?」

「…それでもいいから…!」

「なんか菜帆、積極的だね。…後悔しても、知らないよ?」



意地悪そうな口調とは裏腹に、とても優しく抱きしめられる。

まるで、宝物を包み込むみたいに。…なんて、とんだ自意識過剰だ。


…あぁ、あったかい。

ギュッってされるのは、人の体温を感じられる。

もちろん、他にも体温を感じられることはあるんだろうけど。


全身で、相手のぬくもりを感じられる。

相手の、匂いに包まれる。


…大好きな人の、ぬくもり。

…大好きな人の、匂い。


――好きです、拓海さん。大好きです。


いつのまにか、こんなにも、拓海さんは私の世界の中心地にいる。