「僕はね、小松さん。僕を嫌っている人全員に、何としてでも好きになってもらおうとは思っていないんですよ。そりが合わない、うまが合わないっていうのは誰にだってあるだろうし。そこはちゃんと割り切っているつもりなんです」
「うん……」
「でもその人には……その人にだけは、好きになってもらいたいんですよね」
「そう……」
「一体僕の何がいけないんでしょうね。どう思います? 小松さん」
「う、うううん……」
どうしよう、何のアドバイスも浮かばない。のは、高熱のせいもあるし、石川くんが誰かに冷たくされているというのが、いまいち想像できないからだ。ていうか石川くん、よくこの風邪でダウンしているタイミングでこんな話をしようと思ったな。鬼か!
「あー、ええと……じゃあ明日出勤したら、わたしがその人に話してあげよう、か……?」
こっそり特定して話を聞こうと思ったけれど、どうもそれは無理っぽい。風邪を理由にこの話の結論を見送るのも申し訳ない。ならもう直接その人物の名前を聞くしかないのだ。
石川くんの後頭部に向かってそう言うと、彼の耳がぴくりと動いた、気がした。
「……本当ですか?」
「うん、まあ、いいよ。聞いちゃったし、ほっとけないよ」
「それはありがたいんですが……小松さんが話を聞くのはちょっと無理かもしれません」
「どうして?」
「いやあ、なんと言うか……」
「風邪でダウンした先輩の部屋に、連絡もなく突然押しかけた猛者が、いまさら遠慮しなくていいよ」
「いや、でも……」
ついさっきまで遠慮なく部屋に侵入し、クロゼットを開け、背中を拭き、キッチンを使い、毒を吐きまくっていたというのに。ここにきて突然遠慮するなんて。
不思議に思っていると、石川くんはふうっと息を吐いて、ベッドから背中を離す。そしてゆっくりした動きで振り返り、じっとわたしの目を見据え、こう言った。
「じゃあ遠慮しませんから、しっかり協力してくださいね」
その真っ直ぐな眼差しに少し戸惑いながらも頷くと、それを確認してから石川くんは話を再開させる。
が。その内容は、すぐには理解できないものだった。



