「僕は入社してから毎日、ずっと困っているんですよ。理由は人間関係です」
「……」
睡魔を誘うしょうもない話を所望したはずなのに、後輩の人間関係の悩みなんて、重い話を聞かされるみたいだ。これじゃあ先輩として眠るわけにはいかない。
それにしても石川くんが人間関係で悩んでいたなんて。誰とでも仲良くて、誰からも可愛がられていると思っていたのに。
「どうしても上手く関係を築けない先輩がいるんです。僕は仲良くしたいと思っているんですけど、あちらがどうも頑なで」
困った。こんなことを聞かされたら、ちゃんと相談に乗るしかないじゃないか。
「あー……ええと、その……先輩から、パワハラとかモラハラとか受けたりは……」
「ああ、そこまでじゃないです。ただ態度が冷たいというか。僕が嫌いなだけですかね」
「うーん……」
そう言われて、同僚たちの顔を思い浮かべてみる。部長は温厚、課長はいかつい顔をしているけれど部下想い。主任は厳しいけれど、好き嫌いで態度を変えるような人ではない。他の同僚たちだって同じだ。むしろ石川くんが天使の顔で吐く甘い蜜に侵され、彼を存分に可愛がっているはずだ。
「……気に障るようなこと、石川くんが言っちゃったとかは?」
「検討がつきませんね。僕は何もしていないつもりですが、その人の中で気に障ったのかもしれません」
「直接聞いてみたりは?」
「してません。聞ける雰囲気になりませんし」
「仕事に影響は?」
「出ていません。仕事についてはしっかり教えてくれますし、丁寧で分かりやすいです」
「ふぅむ……」
ますます特定が難しい。うまく関係を築けない人が誰なのか分かれば、アドバイスもできるかもしれないのに……。



