毒がもれだす唇で


「ありがとう、石川くん」

 早まって変なことを切り出さないようぐっと堪えながら言うと、石川くんはいつも通りのきょとん顔で首を傾げる。

「いいですよ、別に。弱った小松さんを見れましたし、良い感じで恩も売れました」
「……まさか。それが目的だったの?」
「どうでしょう。でももし万が一僕が困ったら、助けてくださいね」
「それは構わないけど、石川くんが困ってる姿なんて見たことない」
「わりといつも困ってますけどね」
「冗談でしょ? いつも涼しい顔してるじゃない」
「なんなら今も困ってますよ。いつもしっかりしている小松さんの情けない姿を見せられて、笑いを堪えるのに必死です。困っています、助けてください」
「勝手に来たくせに……」
「小松さんが心配だったんですよ」
「どの口が言うか」

 呆れた息を吐いて苦笑すると石川くんも笑って、わたしの肩元を優しくぽんぽん叩いた。

「もう寝てください。いつまでもおしゃべりしていたら、治るものも治りませんよ」
「うーん……」

 それはそうなのだけれど……。昨日帰って来てからすぐに寝て、仕事を休んで一日寝て、今晩石川くんが来るまでずっと倒れていたのだから、簡単に眠れるわけがない。


「ねえ、もう少しだけおしゃべりしよう」
「そのがっすがすの声でですか?」
「じゃあ何か眠くなるようなつまらない話をしてよ。石川くんのしょうもない失敗談とか」
「僕のしょうもない失敗談は睡魔を誘うんですね」
「まあ、内容にもよる」
「そうですねえ……」

 渋々、という顔だったけれど、石川くんはベッドに背中を預けて座り、何か話をしているみたいだ。わたしも少し体勢をずらして身体を傾け、石川くんのうなじを見ながら話を聞くことにした。