毒がもれだす唇で


 おかゆを少しとグレープフルーツをひと切れ食べ、薬を飲んだ。薬は顆粒を選んだ。石川くんは「錠剤を選ぶと思ってました」と少し驚いた顔。

「だって顆粒のほうが効きそうじゃない」
「まあ顆粒のほうが早く溶けますしね。でも錠剤はゆっくり溶けるぶん、胃を痛めづらいそうですよ。だからあまり食欲がないときは錠剤のほうがいいかもしれませんね」
「それ飲む前に行ってよ」
「ああ、すいません、知ってるものかと」

 くつくつと笑いながら石川くんは、わたしの背中を支えてベッドに寝かし、丁寧に毛布をかけてくれた。
 身体を拭いてご飯を食べて薬を飲んだおかげか、さっきより随分楽になった。

 それは見た目からも感じられるのか、石川くんも優しい顔で頷いた。

「だいぶ良くなったみたいですね。さっきまでのへろへろでくたびれた小松さんも面白かったですけど」

 が、優しいだけで終わらないのが石川くんだ。

「ちょっと面白要素を加えるために、おでこに冷却シート貼っておきますね。ちょっと冷たいですよ、我慢してくださいね。ん、あれ、子ども用のが良かったかな、眉まで隠れちゃった。まあいいか、うん、小松さん、良い感じに面白くなりましたよ」
「……」

 本当に、優しいだけでいいのに……。


 いや、でもいつも通り毒を吐いてくれて良かったかもしれない。ただでさえ風邪で弱って、もしここに旦那さまがいたら、なんて考えていたのだから、優しくなんてされたら、熱のせいにして気持ちを伝えてしまったかもしれない。

 振られるのは間違いないのだから、これから職場で顔を合わせづらくなってしまう。それだけは阻止しなくては。