「小松さん、後ろは終わりましたけど、前はどうします?」
「え、あ、ああ、それは自分でするよ」
「じゃあ僕は食事の用意をしますので、身体拭いて着替えておいてくださいね」
「ああ、うん……」
肩元から差し出されたタオルを受け取りながら頷くと、石川くんはすたすたと寝室を出て行った。
それを確認してから胸やお腹、太ももやふくらはぎ、膝の裏まで丁寧に拭き、替えのTシャツに袖を通すと、さっきよりもだいぶ気分が良くなった。これなら一晩眠れば風邪も治りそうだ。
それにしても、石川くんが食事の支度なんて。できるのかしら……。まさかさっきお土産として持って来てくれたポテトやスパイシーチキンをお皿に盛りつけて持って来る気じゃ……。
不安になりながらも、とりあえずぼさぼさの髪を手櫛でさっと梳かし、ヘアクリップで簡単にまとめて、石川くんを待った。
少しすると「着替え終わりましたね」と石川くんが戻って来た。手には器が乗ったトレイ。そのトレイをわたしの膝の上に置き、代わりに身体を拭いたタオルと脱いだTシャツを受け取る。
「とりあえず何か腹に入れてください。そしたら薬飲みましょう」
てっきりポテトやスパイシーチキンが出て来ると思っていたのに、トレイの上にあったのはおかゆとヨーグルトとカットフルーツ。それからスポーツドリンクも。
なんだこの看病感満載のラインナップは……! 本当に石川くんが用意したものなのか? もうひとり誰か連れて来ていて、キッチンに隠れているんじゃ……。
疑いの眼差しを石川くんと、彼の背後に見えるリビングに向けていると「毒なんて入ってませんよ」と言われてしまった。いくら石川くんが毒吐きマシンでも、毒を混入されていると疑ってはいない。その毒吐きマシンが、今日は蜜多めであることを不審に思っているだけだ。
「食べられそうなものを食べられる分だけ食べてください。薬は顆粒と錠剤どちらも用意してるんで、後で選んでください」
一体どうしてしまったんだ、何か悪い物でも……いや、良い物でも食べたのだろうか。
「それはそうと小松さん、炊飯器のごはん、少し黄ばんでしましたよ。いつ炊いたんです? 炊いたなら食べるか冷凍するかしましょうよ。まあ、食べるのは小松さんなので、黄ばんだごはんをそのままおかゆにしましたけど」
いや、いつも通りか……。



