「ありがとう、石川くん。これでもう大丈夫だから、帰っていいよ。このまま朝まで眠れば回復すると思うから」

 毛布と引っ張り上げながら言うと、石川くんはやっぱりきょとん顔で首を傾げる。

「小松さんは医者ですか?」
「は?」
「医者でもないのに、何をもって回復すると?」
「や、まあ……風邪だろうし、寝てれば治るかなって……」
「病院は?」
「行ってない……」
「薬は?」
「……飲んでない」
「食事は?」
「……作る元気がなくて……」

 こんなやり取りのあと、石川くんはあからさまに大きなため息を吐いて見せる。

「病院にも行かない、市販の薬すら飲んでない、食事も取らず、床で寝て、汗でびちょびちょのTシャツを着て横になっているだけで治るなんて、随分お手軽な風邪なんですね」
「……」

 正論だった。でも病院に行く気力も食事を作る元気もないし、買い置きの薬もなかったのだから仕方ない。

 何か言い返してやりたかったし、いつものわたしならそうしていただろうけれど、残念、やっぱり今日は無理だ。

「石川くん、もういいから、帰ってくれるかな」

 息を吐いてから毛布で口を覆い、少しでも寝やすい体勢になろうと身体を捩ると、途端に毛布をひっぺがされた。

「ちょっと、石川くん、意地悪するなら帰って……」

 抗議しながら見上げた彼は、いつものきれいなきょとん顔、ではなく。眉間に深い皺を寄せ、口をへの字にして、明らかに不機嫌オーラを出して、こちらを見ていた。

「……介抱するなら、居てもいいってことですね」
「え?」
「それならまず身体を拭いてあげますから、その汗でびっちょびちょのTシャツ脱いでください」
「ええ?」

 言うと石川くんは真っ直ぐにわたしのクロゼットに向かい、躊躇なく中を漁り始めた。そしてタオルと替えのシャツを取り出すと「タオル温めて来ますから、服を脱いで待っていてください」と言って、寝室を出て行ったのだった。