「う、嘘だ!」
「ちょっと……」
「だって小松さん、僕のこと男として見てませんよね! 僕がどんなにアプローチしても、」
「いや、毒吐きはアプローチとは言えないから」
「今日だって! どれだけの勇気を振り絞って身体拭きますって言ったと思ってるんですか! 付き合ってもいない男の前で裸になるなんて……脈がなきゃできないだろうから、それで小松さんの気持ちが分かると思ったのに……。小松さんめちゃくちゃあっさり脱ぎましたよねえ! それ僕のことを男として見てない証拠じゃないですか!」
「それこっちの台詞だから。変な気は起こさないって言ったのは石川くんでしょ。そう言われたら、確かに六歳も年上の三十路女の裸を見ても何も感じないだろうって思って」
「人の気も知らないで! 僕がどれだけ我慢していたか」
「ええ? そうだったの?」
「そうですよ! 小松さんうなじも背中も綺麗だし、意外とくびれてるし、肩甲骨の所にほくろあるの知ってます? 色っぽくて色っぽくて、抱きつきたい衝動を、奥歯を噛みしめて我慢したんですよ!」
「それは知ったこっちゃないわ」
「まったく。鈍感にもほどがあります。いい加減にしてほしいですよ」
人を嘘吐き呼ばわりした挙げ句、悪態を吐いた石川くんだったけれど、その間もわたしの左手首は離さない。むしろ手の強さは増している。
でもその表情は、今までで一番優しく、穏やかだった。
その表情に促されるよう彼の目をじっと見つめ、……
「男として見てたよ、ずっと」
胸に秘め続け、むしろなかったことにしようとしていた気持ちを伝えると、石川くんはゆっくりと、両手でしっかりと、わたしの左手を包み込む。
その綺麗な顔立ちに相応しい、美しく、流れるような所作だった。
そして「ありがとうございます」と。すっきりとよく通った声で言ったのだった。



