毒がもれだす唇で


 はあっと深く息を吐いて、両手で顔を覆う。

「小松さん、大丈夫ですか? 眠気来ました?」
「……来てない、けど、石川くん……」
「はい?」
「わたし……きみより六つも年上なんだけど……それでもわたしと仲良くなりたいって、思うのかな……?」
「人を好きになるのに、年齢って関係あります?」
「……ない、よね」
「ないですよ。でも小松さんはなかなか僕を見てくれなかったので」
「……」
「だからこそ今日、高熱で冷静な判断ができていないとき、弱っている小松さんにつけ込むために来たんです」
「言ってることは最低だけどね……」
「僕は打算的なんです」

 打算的なのだとしたら、もっとかしこくアプローチできなかったのだろうか……。

 ただそれを考えると、今まで吐かれ続けた毒も、急に可愛らしく見えてくる。毒を吐きながらも石川くんは優しかった気がするし、他の子たちよりも親しく接してくれていた気もする。

 それに、正しい判断ができないとき、というのは有効だ。

 プロポーズに適した時間というものがある。

 交感神経が優位に働く日中は、活動的で理性的な時間帯なので、頭が冴えて冷静な判断ができる。
 逆に副交感神経が優位になる夕方から夜はリラックス状態になって、頭がぼんやりし、思考や判断が鈍ってしまうらしい。

 つまりプロポーズが成功しやすい、適した時間は夜。リラックスした状態でロマンティックな言葉を囁かれれば、思わず頷いてしまうらしい。

 まあ、人によって生活サイクルも恋人との付き合い方も違うから、一概に「夜が良い」とは言えないだろうけど。

 今回の場合は「副交感神経が優位になるとき」ではなく「冷静な判断ができないとき」だ。

 高熱で頭がぼんやりしているときにアプローチされたら、成功率も上がるだろう。

 まあ……数年に及ぶ石川くんの毒吐きアプローチもサディスティック看病も失敗で、わたしは元々彼に惹かれていたから、今回のことはアプローチのきっかけにしかならないのだけれど……。