俺が席に戻ると、パタパタと姫が駆け寄って来た。

話が聞こえていたんだろう。

心配そうに俺を見る。

だけど、駆け寄って来たくせに、何も言えずに立ち尽くす姫がかわいくて、思わず笑ってしまった。

俺は姫の頭をくしゃっと撫でて、

「大丈夫だよ。心配いらない。」

と言った。

さっきまで、もう一生笑えない気分だったのに、もう笑ってるなんて不思議だ。



俺にとって、結との5年間は、幸せでしかなかった。

5年間、1度も喧嘩する事なく、最後の別れさえ、「ありがとう」で終わった。

結には感謝しかない。


俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。

俺の世話を焼いてくれてありがとう。

俺を愛してくれてありがとう。

俺に愛する気持ちを教えてくれてありがとう。


俺は結に出会って、初めて3次元の女に恋をしたよ。

初めて、女の人は怖くないって思えたよ。

初めて、幸せだと思えたよ。


だから、大丈夫。

俺の心には、まだ結がいる。

数ヶ月会えない遠距離恋愛が、数十年に変わっただけ。

今も、心の中で語りかければ、俺の中に残る思い出の結が答えてくれる。

『海翔なら、大丈夫。』

『海翔、大好きだよ。』