「もし、転勤の前に、俺がちゃんと話してたら、
俺たちの運命は違ってたのかな?」

「多分。」

「そっか。
ゲームみたいに、リセットしてやり直せたら、
きっと結は俺のものだったんだね。」

「うん。」

「最後に抱きしめてもいい?」

「うん。」

俺はそっと、結を抱きしめた。

「結が好きだった。」

「うん。」

「結が大好きだった。」

「……… 」

「結さえいれば、何もいらないと思ってた。」

「……… 」

「結、今までありがとう。」

「私こそ、海翔には、たくさん大切にして
もらったよ。
幸せな5年間だった。
海翔、ありがとう。」

俺の結。

俺が初めて好きになったひと。

結と一生一緒に生きてくはずだったのに。

俺は結を抱きしめたまま、溢れる涙を止められず、情けないくらい涙を零した。

結から泣き顔を見られないのが、せめてもの救いだった。

俺は腕を緩めると、そのまま背を向けた。

「かっこ悪いとこ、見せたくないから、
このまま行くね。
結の中の俺は、永遠に結の王子様でいたい
から。」

「うん。」

「結、さよなら。」

「さよなら、海翔。」

俺は、そのままドアを開けて、部屋を出た。