「3年の春にオーボエに変わって、夏の
コンクールは、オーボエで出たんですか?」

桐生さんが、さっきの話の続きをし始めた。

話をちゃんと聞いて覚えててくれるなんて、ちょっと嬉しくなる。

「そうなんです。
しかも、ソロがあったんですよ!
もう、1人で朝早く行って、必死で練習
しましたよ。
オーボエは、リードを水に浸けた後しか
吹けないから、行ってすぐには練習
できないし。」

「それで、吹けるようになったんですか?」

「なんとか。
先生にも褒めてもらえて、高校でもクラじゃ
なくてオーボエやりなさいって言って
もらえたんです。
その3ヶ月はピアノどころじゃありません
でしたよ。」

「がんばったんですね。
栗原さんは、努力家なんですね。」

桐生さんが微笑んでくれる。

私は嬉しい反面、ちょっと照れくさくなってしまう。

「がんばるのは、音楽だけですよ?
それ以外は、適当です。」

私は笑ってごまかした。