「サックス、カッコいいですよね。」

私が言うと、

「ありがとうございます。」

と、はにかんだような笑顔を浮かべる。

ふふっ
かわいい。

「栗原さんは、何をされてたんですか?」

「私はオーボエです。」

「オーボエ!!
花形ですね。」

「本当はクラ(クラリネット)をやってたんです。
でも、中学3年生の春に突然先生が他所の
学校からそれまでなかったオーボエを借りて
きたんです。
それで、クラのパートリーダーだった私に、
『今日からオーボエやれ!』って
言ったんですよ。」

「それは、すごいですね。」

そこまで話したところで、目的のお店に着き、私たちは、店に入り、左奥の窓際のテーブルに案内された。

「何、飲みます?」

桐生さんが、メニューを見せてくれる。

「じゃあ、ワインを。」

私が言うと、

「銘柄にご希望はありますか?」

と聞かれた。

「特にありませんけど、
甘めの白がいいです。」

「分かりました。」

桐生さんは、店員さんに私の希望を伝えてオーダーしてくれる。

言葉遣いも丁寧で、物腰も柔らかくて、桐生さんは、結構、紳士だ。