それから、コンクールで全国へ行くたびに仁くんに会った。

というか、仁くんに会うために、練習を頑張って全国への切符を勝ち取ってきた。

そして、仁くんと同じ大学に行きたくて、東京の音大を受けて進学した。

だけど、同じ大学の3年生にいるはずだった2つ年上の仁くんは、3年生になる事なく、留学してしまった。

そしてその2年後、仁くんは、22歳で国際コンクールで優勝し、日本を代表するピアニストになった。

お母さんによく似たその整った容姿から、マスコミにももてはやされ、凱旋公演のチケットはクラッシックコンサートにも拘らず、10分で完売した。

仁くんは、大学を卒業後も、公演活動の拠点をヨーロッパにおいていたから、日本に帰ってくる事はほとんどなかった。

だから、私が仁くんに会うのは、高校3年生以来、8年ぶりの事だ。