家も、古い日本家屋だった。

改めて思う。

瀬崎さんって、お坊っちゃんだったんだ。

ただの実業家じゃなかった。

私は、改めて瀬崎さんの置かれている立場を認識すると、先程までとは違う緊張に襲われた。

さっきまでは、好きな人の両親に認めてもらえるか、という事しか考えてなかったけど、今は新たに、こんな上流階級の人の前で、失礼なく振る舞えるかという緊張が加わった。

私は、ちゃんとした礼儀なんて習った事ない。

ごく当たり前の庶民の挨拶しかした事がない。

よくテレビで見る「ごきげんよう」みたいなお上品な挨拶をしなきゃいけないのかな?

でも、どう言えばいいのか分かんないし。

私が困ってると、瀬崎さんが手を握ってくれた。

「夕凪、緊張してる?
こんなめんどくさい家だけど、住んでるのは
普通の人間だから、いつも通りの夕凪で
いいよ。」