私は、久しぶりに瀬崎家の玄関に立った。

チャイムを鳴らすと、程なく玄関が勢いよく開いた。

「あ…れ? 夕凪先生?」

戸惑った表情の嘉人くん。

「こんにちは。」

私が挨拶をすると、

「こんにちは。先生、どうしたの?」

と嘉人くんは首を傾げる。

あれ? 私の異動で泣いたんじゃなかったの?
もっと歓迎されると思ったのに。

私は内心、がっかりしながら答える。

「今日は、嘉人さんにお返事をしに来たの。」

「お返事?」

「そう。上がってもいいかな?」

「あ、うん。
パパぁ! 夕凪先生、来たぁ!」

嘉人くんは、部屋の中へ駆け出していく。

私が部屋に入ると、瀬崎さんにリビングのソファーを勧められる。

私が腰掛けると同時に、瀬崎さんがコーヒーを出してくれる。

嘉人くんは、様子を伺うように隣の1人掛けのソファーの背もたれの後ろから私を眺めている。