家庭訪問は恋の始まり

「いえ、そういう訳では… 」

「ねぇ、先生、一緒に見よ?」

嘉人くんは、無邪気に私の手を取る。

「ごめんね。先生もそうしたいんだけど、
席が決まってるから、出来ないの。
また今度、チケットを買う前に会えたら、
一緒に見ようね。」

「ええ!?
じゃあ、映画の後で遊ぼ。」

これは…

嘉人くんの多動性が表れ始めた気がする。

「嘉人さんは、映画の後、お父さんと何か
お約束があるんじゃないの?」

やんわりとお父さんを思い出させてみる。

「うん。お昼ご飯を食べるの。
先生も一緒に食べよ?」

私は、武先生を見上げた。

すると、武先生も屈んで、嘉人くんに向き合い、

「お父さん、せっかく嘉人さんとお出掛け
したのに、先生たちがお邪魔したら、がっかり
するだろ?
今日は、お父さんといっぱい楽しんでおいで。」

と諭して、嘉人くんの頭を撫でた。