はずだったが…
体は実に正直で
大丈夫だと言い聞かせていたけれど ___
「しんどい…。しんどい…。」
誰も聞こえないぐらいちっちゃな声で呟きながら
保健室に向かったが
扉には鍵がかかっており《職員室にいます》と書かれた張り紙が貼られていた
「職員室まで行かなくちゃ…。」
保健室があるのは1階
職員室があるのは2階
たった1階上のフロアに上がるだけなのに
今の私には一段一段が 辛く 苦しかった
「しんどい…。しんどい…。」
と呟く声は無意識に大きくなっていた
職員室の扉をノックし
「失礼します。保健室の先生いらっしゃいますか」
ヒューヒューと肺から聞こえる喘息特有の音に負けそうになりながらも必死に声を出した
職員室から出て廊下の先を見ると背の高いスーツ姿の男性がこちらに向かって歩いて来ていたが
意識が朦朧としていた私には全く誰か分からなかった
保健室の先生が慌てて出てきてくれて
職員室前のエレベーターホールに椅子をだしてくれた
椅子に座り、視線をあげた先には“瞬ちゃん”がいた
「あっ…。」
思わず声が漏れた
廊下の先からこちらに歩いて来ていたスーツ姿の正体は瞬ちゃんだった
『どした。具合悪いん…?』
私は黙って首を縦に振った
保健室の先生が体温計を持ってきてくれて私がカッターシャツのボタンに手を伸ばすと
瞬ちゃんはくるりと後ろを向いて
廊下の壁に貼られた無数のポスターに目をやった
瞬ちゃんの気使いに感謝し、急いで体温計を脇に挟んだ
《ピピッ … 37.6》
静かな廊下で体温計の音がやけに大きく聞こえた
〈どうする…?1時間休む…?〉
「…帰ります。」
〈じゃあ…家に連絡してくるね〉
1時間休んだところで体調が良くなるとは思えない
自力で自転車で帰れる自信もない
咄嗟に私は帰ると保健室の先生に言ってしまった
保健室の先生は職員室に戻り
授業中のとても静かな廊下で
私と瞬ちゃんの2人きりになった
心臓がドキドキしていたのは体調のせいだったのか
もう既に手遅れだったのか
先に沈黙を破ったのは瞬ちゃんだった
『そういえばさ…琴乃、LIVEまだなん?』
私は好きなアーティストのLIVEを目前に控えており、日記を書い毎日提出するノートで事前に先生にも伝えていた
「えっと、もう直ぐチケットが届く…?」
『あ〜、まだなんか!あれ見る時ヤバイよな!』
「うん…めっちゃ緊張する…笑」
瞬ちゃんもLIVEやイベントが大好きなのでチケットの座席を見る瞬間の気持ちやLIVEを目前にして楽しみな気持ちは同じだった
あんなにしんどかったのに
瞬ちゃんと大好きな音楽について話している間は少し楽な気がした
教室に荷物を取りに行き授業中だった教科担当の先生に事情を説明して玄関に降りた。
その間も瞬ちゃんは黙ってずっと横にいてくれた
暫くして母親が車で迎えに来てくれて
助手席に座り玄関を見ると
運転席の母親に向かって瞬ちゃんはペコりと頭を下げていた
