2時間くらい経過した頃、翔太郎と穂乃香さんは太田川校の方へ向かって行った。

私は胸を撫で下ろす。



私は、担当授業を終え、保護者対応と生徒の見送りに集中していた。

保護者や卒業生と仲良くすることは、塾に大きなメリットを与えるため、大切な時間だ。

評判の良い仕事が出来る塾長、優秀な個性豊かな講師達、また、環境の整った優れた塾と多くの人に思ってもらえたら、生徒数は自然に増加する。
つまり、利益が上がる。

私は幸いにも保護者、生徒達に気に入ってもらえているようだ。
感謝しなければいけない。
やりがいも増す。




時計の針が10時をさした。


「美園先生、美園先生ちょっと…」
立石先生が背筋を伸ばしながら、近づいてきた。

「…ん?」
私は、ちょっと待ってて、と目で合図した。

「立石先生、みんなをいつものように見送って下さい」

「は、はい、わかりました」



「気をつけてね。さようなら」
立石先生が大きな声で言う。

「先生、さようなら」
生徒達が答える。


繰り返される毎日の光景、ある意味、儀式みたいだ。



「ふぅーお疲れ様。いつもありがとうね。」
思わず椅子に腰かけて、もたれる。

「あ、そう言えばーなんだった?」
私は夕方の手の感覚をほんのりと思い出してしまった。

「あ、あの、今夜は予定ありますか?ご飯行きませんか?」
やけにポジティブにアクティブに見える立石先生。


「え?どうした?」
私は、勘違いじゃなかったの?と自問自答を繰り返した。
そして、立石先生のものすごく熱い眼差しにフラフラ倒れそうになった。

「たまには行きません?」
なんだか目からはハートが飛び出している?
気のせい?気のせい?気のせい?


「ご、ごめん、私はまだ仕事あるの」

「じゃあ、手伝います」

「いや、大丈夫」

「じゃあ、終わるまで待ちます」

「いや、何時になるか、わからないから、ごめんなさい」

「な、なら、何か買って来ます!いいですよねー?」
なかなかしつこい、めげない立石先生。

「は、はぁー」
あまりの勢いに圧倒されていた。


「よっしゃー行ってきます!」
何故かガッツポーズの立石先生は、足取り軽く踊るように塾を出て行った。