「美園先生、お疲れ様です。あれ、先生、今日のスーツいいですね、似合ってます。」

すっかり塾になれた?私になれた?立石先生が、余裕たっぷりの笑顔で、コピーしている私に話しかけてきた。

「そう?嘘でも嬉しいよ」
私は、笑いながら答えた。

「あ、コピーなら、俺やりますよ」

「優しいな、やっぱ立石先生はー」

「貸して、何部ずつですか?」

「大丈夫、大事な資料だから、ありがとう」

「そんな、やりますってー」
立石先生は、私の目の前にある資料をポイッと取り上げた。

「…あ」
そして、誤って私から取り上げた資料を持つ手を離してしまった。

「ち、ちょっと…」
珍しく強引でハイテンションな立石先生に少しびっくりし、動揺した。

私と立石先生は、慌てて座り込み、一面に散らばった資料を拾おうとした。


ギュッ

ん?
なんだ?

私の右手をいきなり強く握りしめた立石先生。

「ど、どうしたの?」
立石先生は、何故か手を離そうとしない。

私はその場で固まっていた。


すると、

「お疲れ様です」
「こんにちは、お疲れ様です」
入り口から、翔太郎と穂乃香さんが同時に仲睦まじく笑いながら入ってきた。


私は凍りついた。
立石先生も動かない。手も離さない。
まるで一枚の写真のような光景。


ただ、私は翔太郎の目をパチリパチリさせた驚いた表情だけ、心に強く刻み込まれた。


「た、立石先生、大丈夫だから、ありがとうね」


うそー
気のせい?
立石先生、顔が真っ赤だよ。
私を見る目がなんか違うよ、いつもと。
やばぁー私の勘違い?


私は資料を揃え、身なりをきちんと整え、コピーを続けた。

「立石先生は、授業準備して。」
私はわざと少し険しい顔で言った。